初音ミクと仏教

 時間の流れが速い今日このごろ、2017年も終わりが近いという時に2016年の話題をもちだすのも気がひけますが、VR(バーチャル・リアリティ)のテクノロジーの進化に関心をもつ者としては、そうでもありません。
 というのも、日本のメディアによると2016年は、
「VR元年」
 と呼ばれる記念すべき年になったからです。
 この年のVR関連の最大の話題といえば、まず思い浮かぶのが十月のソニー〈プレイステーションVR〉の発売。
 いまさらいうまでもなく、〈プレイステーション4〉を進化させたゴーグル型の端末で、VRヘッドセットを装着すると、プレイヤーを360度囲む3D空間が出現。
「サメに襲われて心臓がとまりかけた」
 が一部の煽りの商品でしたが、「VRヘッドマウントディスプレイをつけたままの一貫した操作がやりづらい」などの声はでたものの、人気を呼びました。
 また、これに先立ち、その半年前の四月には米グーグル社が仮想3D空間に立体的な絵を描けるVRペインティングソフト〈Tilt Brush〉を発売、こちらは〈プレイステーションVR〉が出た月に東京の青山でこのソフトを用いたライブ制作を気鋭のアーティストたちがおこなった。
 これもまた、VRに関心をもつアートシーンの関係者の間で注目を浴びました。
 こうしてみると2016年がVR元年と煽られたのもアリだったのかなという気がしてきますが、よく考えてみれば、これらは3D技術の進化のせいで目立ったというだけの話。
「VR文化の歴史」にこだわるならば、少なくとも日本における「VR元年」は――独断と偏見を怖れずにいえば――、いまから十年前、
「初音ミクご生誕」
 の2007年だったのではないでしょうか?
 実際、この声優のキャラクター・ボイスを元に生まれたボーカルアンドロイド(VOCALOID)はその後、ニコニコ動画の投稿を通じてキャラクターを進化させつつインターネット空間で育てられる、
「バーチャル・アイドル」
 として日本のVRC(仮想現実文化)を代表する存在にまで駆けあがった。
 で、それについて何が言いたいのか?
 ここからが我田引水ですが、仏教では現実と虚構の区別をもうけない。現実は究極的にはすべて仮想現実(バーチャル・リアリティ)とみなされる、とこれは本サイトのエッセイなどで何度も書きました。
 このことはいいかえると、仏教は世界を初めから、
「ホログラフィックなもの」
 としてとらえて平然としてきたということです。そう、〈空〉なるものがつかのま創出した、ホログラム・ワールド。
 べつに、
「仏教王国The kingdom of Buddhists」
であるところの日本をことさらショーアップする意図はありませんが、初音ミクはこうした国柄が生むべくして生み、育てるべくして育てたアイコンだという気がしてなりません。
 2020年の東京オリンピックの開会式、そのアトラクションでは、ナマ身のタレントさんにはご遠慮頂く。代わりにVRのキャラクターたちのみをホログラフィックに歌って踊らせ、世界中から集まった〈ナマ身の力〉自慢の「神ってる」(死語。2016年製)ヒーローたちを唖然呆然とさせるのもテではないかと思うのですが、どうでしょうか?

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